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写 真

種 名

種の解説

ヘクソカズラ

(くそかずら・屎葛)

【アカネ科ヘクソカズラ属の蔓性の多年草】

 至る所に生育する雑草。葉や茎に悪臭があることから屁屎葛(ヘクソカズラ)の名がある。

葉は蔓性の茎に対生し、形は披針形から広卵形で、縁は全縁。花期は7月から9月頃で、花弁は白色、中心は紅紫色であり、その色合いが灸を据えた跡のようなのでヤイトバナ(灸花)の別名がある。

 果実は黄褐色。干して水分を飛ばした果実、または生の実を薬用とする。ただ、生の果実はかなりの臭気を放つのに対して、乾燥したものは不思議と臭いが消えるため、乾燥したものを使うことのほうが多い。劇的ではないが効用は認められており、しもやけ、あかぎれなどの外用民間薬のほか、生薬の鶏屎藤果としてもしられている。

 万葉集(巻十六)

かわらふじに 延ひおほとれる屎葛(くそかづら) 絶ゆることなく宮仕えせむ(高宮王)

ミツバアケビ

さのかた・狭野方)

アケビ科アケビ属の落葉性ツル植物】

 4月から5月頃、濃紫色の花を咲かせる。ミツバアケビとよく似たものには、同じ仲間のアケビ(小葉が5枚)、両者の交雑種で中間の形態を持つゴヨウアケビ、常緑のムベなどがある。

 ミツバアケビはアケビに比べて荒れた場所や乾燥した場所にも生育し、マツ枯れ跡地などにもよく生育する。伐採跡などに侵入し低木などに巻き付いて木に登るが、ツル植物としては比較的おとなしい方で、フジのように巻き付いた樹木を枯らしてしまうほどの猛威を振るうことは少ない。森林破壊があった後、比較的早期の段階で生長・結実し、森林の回復に伴って、他の場所へと移動する戦略を取っているものと思われる。アケビの仲間は、果実が熟すと割れて中の果肉が見えるようになる。その姿を「開け実」とよんでいたことが、名前の由来。アケビの果肉は甘く、秋から冬にかけて、小鳥や小動物の食べ物としては重要である。

ヤブカンゾウ

わすれくさ・忘れ草

【ユリ科ワスレグサ属の多年生草本】 

 有史前に入ってきた中国原産の多年生草本で、各地に見られる。花は八重咲きであり、3倍体であるので結実しない。点々と人家近くの草地などに生育が見られるが、種子で増えることはないので、過去に栽培されたものが生き残ったり、河川の氾濫にともなって流されたりしたものであろう。そのようなこともあって、現在の生育地は堤防や小川のほとり、耕作地の周辺などであることがほとんどである。匍匐茎を出して広がり、群落を形成する。

 若葉と花は食用になり、乾燥させて保存食としたりした。また、民間薬として利尿剤に利用される。よく似た種にノカンゾウがある。ノカンゾウの花は一重であり、結実する。

ヤブコウジ

(やまたちばな・山橘)

【ヤブコウジ科の常緑小低木】 

 林内に生育し、冬に赤い果実をつけ美しいので栽培もされる。別名、ジュウリョウ(十両)。

ほふく茎が長く這って伸び、先が20cmほど立ち上がって葉を輪生状につける。花は白か淡いピンク色で、夏に葉の腋から伸びて下向きに咲く。果実は液果で冬に赤く熟す。日本のほか東アジア一帯に分布する。

 正月の縁起物ともされ、センリョウ科のセンリョウ(千両)や、同じヤブコウジ科のカラタチバナ(百両)、マンリョウ(万両)と並べてジュウリョウ(十両)とも呼ばれる。寄せ植えの素材などとして使われる。

 それとは別に、斑入り品などの変異株が江戸時代より選別され、古典園芸植物の一つとして栽培され、それらには品種名もつけられてきた。古典園芸植物としての名前は紫金牛(これで「こうじ」と読ませる)である。明治年間にも大流行があり、一鉢に家1軒の値が付いたこともある。現在では約40の品種が保存されている。

 縁起物として扱われた経緯から、落語「寿限無」の中の「やぶらこうじのぶらこうじ」とは本種のことと推測される。

ヤブツバキ

(つばき・椿・都婆伎) 

【ツバキ科ツバキ属の照葉樹】

 花が美しく利用価値も高いので万葉集の頃からよく知られたが、特に近世に茶花として好まれ多くの園芸品種が作られた。

 和名の「つばき」は、厚葉樹(あつばき)、または艶葉樹(つやばき)が訛った物とされている。

水路の落椿の花は花びらが個々に散るのではなく、萼の部分から丸ごと落ちる。それが首が落ちる様子を連想させるために入院している人間などのお見舞いに持っていくことはタブーとされている。この様は古来より落椿とも表現され、俳句においては春の季語である。武士はその首が落ちる様子に似ているというのを理由にツバキを嫌った、という話もあるがそれは幕末から明治時代以降の流言であり、実際には江戸時代には大々的に品種改良が進められていたというのが真相である。

 ツバキは生長すると樹高20mほどになるが、日本のツバキの大木はほとんど伐採され、最後の供給地として屋久島からも切り出されたが、現在では入手の難しい材である。大木は入手しにくいので建築用にはあまり使われない。木質は固く緻密、かつ均質で木目は余り目立たない、摩耗に強くて摩り減らない等の特徴から工芸品、細工もの等に使われる。代表的な用途は印材。近年は合成材料の判子が多くなったが、以前の木の判子は、殆どツバキが使われていた。木炭としてもつばきの木炭は素晴らしく、昔は殿様の手焙りに使われた。

 椿油は、種子(実)を絞った油で、用途の広さは和製オリーブオイルとも言える。高級食用油、整髪料として使われるほか、古くは灯りなどの燃料油としてもよく使われた。

 ツバキの花は古来から日本人に愛され、京都の龍安寺には室町時代のツバキが残っている。他家受粉で結実するために変種が生じやすいことから、古くから品種改良が行われてきた。江戸時代には江戸の将軍や肥後、加賀などの大名、京都の公家などがが園芸を好んだことから、庶民の間でも大いに流行し、たくさんの品種が作られた。茶道でも大変珍重されており、冬場の炉の季節は茶席が椿一色となることから「茶花の女王」の異名を持つ。

 また西洋に伝来すると、冬にでも常緑で日陰でも花を咲かせる性質が好まれ、大変な人気となり、西洋の美意識に基づいた豪華な花をつける品種が作られた。

ヤブラン

(やまずげ・山菅)

ユリ科の多年草】

 関東地方以西の温暖な地に生育する常緑の多年草。東南アジアにも分布する。常緑樹林の林床にも生育するが、林縁や明るい谷筋でなければ花を咲かせることは少ない。同じような環境に生育するシュンランと葉が似ている。

 古くから庭園にも植栽されている。8月のおわり頃から10月にかけ、長い期間花を咲かせる。秋には黒紫色の果実が稔る。

 植物が花を咲かせる時期はなんといっても春であるが、秋の始まりにも花を咲かせる植物はたくさんあって、秋の到来を感じさせる。ヤブランもそのような植物の1つであり、夜が涼しくなると待ちかねたように花を咲かせる。このような常緑樹林域に生育する多年草は、種子を稔らせるための期間がまだ十分にあるので、高温の盛夏を避け、気候の温暖な秋にじっくりと花を咲かせ、果実を作るのであろう。秋に稔った果実は動物や鳥たちへの恵みとなる。ヤブランも晩秋に種子散布されることをねらっている。

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